医療機関・薬局向け

情報化社会だから情報が手に入らない?①

監修医師 井手 武
更新日:2024年11月25日

更新日:2024年11月25日

情報化社会だから情報が手に入らない?①のイメージ

情報化社会だから情報がにらない?①(導入)

先日 私個人的な医療機関におけるデジタル化について以前書かせていただきました
https://sokuyaku.jp/column/tokyo_vision_04.html
そして具体的なツールであるStream Deckについても書かせてもらいました
https://sokuyaku.jp/column/tokyo_vision_05.html

時間のミクロとマクロ

先日の記事では

 

「Dx化することにより患者さんとのコミュニケーションが増えることだと考えております。」

 

「個々の医師や薬剤師のコミュニケーションのクセはデジタル化出来ないのです。そのクセというウェットな部分を思いっきり発揮するためにも、デジタル化できる部分の入力はテンプレートで代用できるという発想で採用したのが、Stream Deck と Stream Deck Pedal です。」

 

Stream Deckは、診療内で決められた時間のパイの取り分を自分側に増やすことがポイントでした。(1) 例えば、電子カルテへの入力や薬剤情報の検索などをStream Deckで自動化することで、患者さんとのコミュニケーションに集中する時間を増やすことができます。 これは、しなくてはならない業務の中で必要に迫られたミクロな視点での時間を絞り出す工夫でした。

 

しかし、もう一つマクロな視点での時間作りの必要性、すなわち、診療時間外における業務効率化についてこれから順に書かせていただきます。

図書館に行かれますか?

皆さん、本屋さんや図書館には行っていますか? 多くの方は行っていない、または行く頻度が少なくなっているのではないでしょうか。

 

私自身、今年52歳になりますが、小学校の頃は学校の図書室や南千里の図書館によく行っていました。図書館でプラネタリウムを見たり、本を借りたりするのが日常でしたで。プラネタリウムの解説は、今でも鮮明に覚えています。担当の男性の話し方はもちろん、内容もほとんど暗記してしまうほど、何度も通いました (ちなみに南千里というのは大阪の吹田市の阪急電車の駅です)。

 

最近は、開館時間の制約や移動時間のことを考えると、なかなか足が向きません。また、Amazonなどネット書店の方が蔵書数が多く、欲しい本がすぐ手に入るのも事実です。日常の情報収集もWEBで済んでしまうため、図書館に行くのはもっぱら自習目的になってしまいました。

【検索する】場合と【検索される】場合

皆さんは情報検索する時にはGoogleをたくさん使われていると思います。 特に検索結果1ページ目にある複数のリンクをクリックして情報を得たり買い物をしたりしているかと思います。これについては特に皆さん異論はないかと思います。

 

しかし、逆にみなさんがご自身の薬局やクリニックが検索されたと仮定したときにGoogle評価のコメント見てください 嬉しいコメントがある反面 「そんな事言われても、、、」とか 明らかに悪意のあるコメントもあるかと思います。あと、自分の専門についてGoogle検索すると 「うーん? この先生本当は専門家ではないんだけどなー」という先生が上位に来ていることがあると思います。

 

つまり、【検索する場合】と【検索される場合】でGoogle評価に対するスタンスが異なるということです。(2)

 

Google検索には、「SEO対策」という問題点があります。SEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)とは、Webサイトを検索エンジンのランキングで上位表示させるための対策のことです。 SEO対策を専門とする人が多く存在し、検索エンジンのランキング上位表示を目的とした情報操作が行われているため、検索結果が必ずしも客観的な情報とは限らないという問題があります。(3)

 

例えば、ある商品について検索した場合、SEO対策を施した企業のWebサイトが上位に表示され、消費者に有利な情報や中立的な評価が下位に埋もれてしまう可能性があります。

 

これは、情報の信頼性におけるバイアス問題と言えるでしょう。検索結果の上位表示は、必ずしも情報の信頼性を保証するものではありません。

全部の中から選べる?

「検索上位の情報だからといってSEO対策のためにバイアスがかかっているのでGoogleの情報が信じれない」ということは理解した!じゃ、俺はGoogleの検索結果を全ページ見ます!という強者がいたとしましょう。

 

ここには2つの問題があります。

 

・TPPI問題

・そもそも全部にはアクセスできない

TPPI問題

これは以前のSOKUYAKUさんの記事でも書いた私の造語ですが、私が代表をつとめるNYAUWという活動ではTPPIの解決ということをいつも意識しております。(4)(5)

 

TPPIとは、Theoretically Possible, But Practically Impossible の略です。

 

– オリンピック選手に競技を選べばなれますが、なろうとする人は殆どいないですよね?
– 宝くじも理屈上買い占めれば必ず当たりますが買い占めませんよね(それに買い占めて全ての当たりくじを手に入れたとしても胴元の手数料分は負けるので)

 

このように、理屈上は可能でも現実的には不可能なこと(TPPI)をいかに解決するかが、常に私の課題です。

 

私の苦手な言葉は「どんな状況でも頑張りましょう」という言葉です。そういう曖昧な言葉だと360度全方位的になんでもやらなくてはならないからです。そういった全方位的な頑張りが必要な環境や時期もあるのは認めますが様々なリソースに限りがある中で現実的な対応を考える必要があります。

 

あとはアクセスできる情報だとしてもロシア語で書かれている情報&翻訳ツールがあったとしても現実的にそのページをクリックしようとは思わないですよね?このようになにかのハードルがあるとそれを越えてまで情報にアクセスしようと思わなくなるのです。

 

そういった意味で1週間に7日間、そして1日24時間しかない中である話題の検索のために全ページ見るのはTPPIですし、合成の誤謬的にも、ある患者さんについての検索に多大すぎる努力をつぎ込むのは多くの他の患者さんのためになりません。(6)

 

そのための他の専門家への紹介だったりAIだったりDxだったりするのです。

Web情報だったとしてもアクセスできない

もちろん情報にはデジタル情報以外もあったり、P2P情報などアクセスできないものもあります。しかし、 WEBで理屈上アクセスできるものであったとしても到達できない情報もあるこを認識しなくてはなりません。情報にアクセスできているつもりが出来ていないと言うことに気づいていないことが怖いんです。(無知の無知問題ですが、これについては長いのでご興味ある方はこのリンクでお読み下さい)

 

「新ネットワーク思考」(NHK出版)からの抜粋になりますが、「全てのウェブページが互いに連結されているわけでは無いのだ。 どのページから出発しても到達できるのは全ドキュメントのわずか24%ほどにすぎず 残りのページにはネットサーフィンによっては辿りつけないのである。 そんなことになっているのはウェブのリンクが向きを持っているからである。 これを言い換えれば 我々はURLに沿って1方向にしか進めないということだ この向き付けされたネットワーク内の2点が直接リンクされていなくても他のノードを介して連結す。

 

ることができる。 例えばAからDに行きたければA>B>C>Dにたどり着くことはできる。 しかしその道を戻ることはできない 向きづけされていないネットワークではできるが 向きづけされている場合には むしろ行きと帰りは別の経路にになる可能性が高いのである。」「ワールド・ワイド・ウェブのような向き付けされたネットワークは、識別の容易ないくつかの大陸に分裂する。すべてのノードとつながる中央大陸、中央大陸側にしか進めないIN大陸、中央大陸に戻れないOUT大陸、IN大陸とOUT大陸をつなぐトンネル、大陸とつながる半島、大陸とつながらない個々の島で構成される。」つまり、理論的に情報が世の中に存在していても24%しか到達できないということなのです。(7)

マインドセットの変革が必要

世間ではAIが出てきて仕事に対するマインドセットの変更をせざるを得なくなっているように、医療についても当てはまると思います
『ヒポクラテスの誓い 』は、2000年以上前の医療状況下で書かれたものです。その一部には現代にはそぐわないところもありますが、多くは、いまも医療倫理の根幹を成しています。

 

『ヒポクラテスの誓い』を現代的な言葉で表したのがWMA(世界医師会)のジュネーブ宣言(1948年)です。さらに近年、医学の発展とともに医療は高度に専門化、複雑化されています。患者主体の医療が提唱されるようにもなり、患者には自分の診断・治療・予後について完全で新しい情報を得る権利が生じました。

 

これは、患者側にも、公式に医療を受けるリスクが求められるようになったということです。そして医療側には、そうした患者に納得してもらうための十分な情報提供が求められるようになったのです。即ち、患者の人権、自己決定権の尊重、インフォームド・コンセントであり、時代の変遷とともに新しい倫理も生まれてきました。こうした背景にあるのは、医学研究の倫理的原則を示したヘルシンキ宣言(1964年)や、患者の権利に関するリスボン宣言(1981年)などです。

 

リスボン宣言の中には「良質の医療を受ける権利」について述べられています。その中の小項目には「患者は、常にその最善の利益に即して治療を受けるものとする。患者が受ける治療は、一般的に受け入れられた医学的原則に沿って行われるものとする」とあります。しかし、前述のような情報爆発の世界では「一般的に受け入れられた」情報さえ、専門外の医師には、正しく扱うことが難しくなっているのです。

 

これまでの小括でありますが、患者の期待値の増大と情報爆発で個々の医師のカバー範囲は医療知識の総体に対して日に日に狭くなっており、リスボン宣言で言われる「一般的に受け入れられた」医学的原則でさえ専門外では理解できなくなりつつある現実があります。こうなると他に専門性を求めなくてはならなりません。

 

医療知識に関する知識格差が大きく、医学知識総量が多くなかった過去においては、紹介はギルド内の医師関係内で完結することが多かったのですが、現代は医療の受益者であり知覚者である患者の医療知識レベルと期待値の向上と医師の医療知識総体に対するカバー領域比率の低下、専門分化、交通機関の発達などによりギルド内の紹介だけでは患者の期待に応えられなくなっております。

情報爆発と医療

とくに現代は、ICT 「Information and Communication Technology(情報通信技術)」 の発展によって、科学技術の積み上げ速度が上がっています。俗にいう情報爆発です。これ自体には、当然、良い面もあります。たとえば、これまで対応不可であった疾患が、治癒可能になるまでの期間も、かつてないほどに短縮されてきています。あたらしい治療法を前にして「もっと早くこの医療技術が完成していれば」と嘆いた経験は、どの医師にもあるでしょう。その意味では、こうした情報爆発は大歓迎です。

 

しかし同時に、情報爆発によって非常に困ったことが起きてもいます。医学情報の総体が倍増するのにかかる時間は、1950年には50年かかっていました。これが2020年には73日(0.2年)になるそうです。現役の医師が、自分の専門分野をUPDATEし続けるためには、論文を週に160時間読む必要もあるそうです。1週間=24X7=168時間ですから、160時間をUPDATEするだけにつかってそれ以外、寝る時間なども含めて1週間に8時間しか残らないことになります。これは事実上不可能ということです。知識の陳腐化が非常に早いことを示唆します。(8)(9)

マクロ視点で時間を得る

こういったことを考慮すると、自分でなくてもできる部分は自分以外の人やモノや仕組みを使って省力化をして時間を作り出すことが大切かと。ここで大切なのは根性論に走らないことです。そこで情報の自動取得をTPPIの解決のために行う仕組みツールの一つがZAPIERなのです。
次回以降の記事ではサンプル練習問題を含めて行ってまいりましょう。

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東京ビジョンアイクリニック 阿佐ヶ谷 院長
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